一新塾講義録(2003年2月12日19:30〜21:30)
「首相官邸−日本の政治を考える」
 駿河大学法学部教授 成田憲彦氏


■ 小説「官邸」は、政治改革法案を巡る経緯を消費税に置き換え、登場人物の名前や配置を変えることで、「ウソの顔をして本当のことを書いた小説」であり、細川総理の政務秘書官として、感じたことをかなり正直に書いたつもりである。
■ 小説「官邸」では、政治の「裏」ではなく「奥」を書いた。政治学の研究者として、他の研究者が見たことのない「奥」を見たのは貴重な経験だった。「小沢一郎は宮本武蔵だ!」と感じるような瞬間、それは、研究者では味わえない実感である。
■ 小説を執筆していると、一つ一つの事実の積み重ねのどれが違っても、筋書きが違ってしまうことに気づいた。そう考えると、どの事実が違っても細川政権というものはあり得なかったのではと考えてしまう。
■ 政治学者は、常に「歴史主義」の誘惑と戦わなければならないが、一回限りの偶々の事実を抜きにしても成り立ちうるものは何か、それを考えていくのが政治学者の仕事である。
■ 小説「官邸」では、自民党政治の本質というものを、竹中昇(竹下登)という政治家に体現させた。その自民党政治の本質は、世の中の苦しみ、人間の悩みを、汚いものからきれいなものまですべて引き受け包み込んでしまう土俵の広さである。その土俵の縁は、表の世界から深い闇の世界まで通じていて、こっちが「寄り切った」つもりになっていても、いつの間にか相手にのまれてしまう、そういう恐ろしさを持っている。そのような民自党(自民党)政治に照らせば、豪腕の財部一郎(小沢一郎)でさえ、全うに見えるのである(実際、小沢という政治家ほど虚像と実物が乖離している政治家も珍しい)。
■ 55年体制とは、保革対立の構図、一党優位体制の下、自民党が官僚と共生し、高度成長で得られた利益分配する仕組み、すなわち「自民党システム」による政治である。そして、その中では、自民党は「政権獲得」があがりの双六を、社会党は組合の委員長から議員となり議員年金受給権を得るのがあがりいう双六と二つの違った双六をしていたと言える。
■ 冷戦構造の崩壊、高度成長の終焉は、「自民党システム」の終わりを告げている。経済学者のように「誰々が間違った政策を選択したからだ」と言ってみてもしょうがない、むしろ「ガバナンス」がそれを許さなかったと考えるべきである。そして、この状況を打開するには、野党を育てるしかない。
■ 日本では、少しでも気を許すとどちらかに引っ張られてしまう利益誘導の強いが働いているために、「景気回復」か「構造改革」かどちらか両極端な選択肢しか持ち得ない状況にある。本来は、構造改革を進めながら景気回復を達成するにはどうしたらいいかという政策の中身で競うべきである。
■ 現在の日本のように巨額の国家債務をハイパー・インフレか戦争・革命のいずれかに頼らずに帳消しした国家は歴史上存在しない。
■ 現在の小泉政権が構造改革を志向していることは争いないが、その実、自民党権力を温存しようとするめくらまし政権となっていないか、しっかりと見極めていく必要がある。
■ 官邸に自前の情報とスタッフを持たせようとしないのは日本政治の統治システム最大の秘密であり、それは明治以来の縦割り行政、憲法の趣旨に反して閣議での全会一致なしには首相はなにもできないようにした内閣法に根元を有する。そして、自民党は、縦割り行政と共生することで利益分配の仕組みを築き上げてきた。そしてこの根本構造の改革なしには、官邸主導の政治はあり得ない。小泉首相が経済財政諮問会議を重用する手法はこれと根を同じくするものである。
■ 議員定数の適正規模というのはない。必要以上に、議員定数を増加させることは、質の悪い代表を増やすことであり、「逆選択」を生み、賛成できない。人口何人に対して何人の代表が適当かと考えるべきである。
○共産党を将来的に日本政治の中にどう位置づけるかは難しい。「共産党からし説」と言うのがあったが、如何なる場でも正論を主張する共産党のような存在はやっかいであるが必要かも知れない。
■ つきつめると、最も悪いのは官僚である。国家公務員法は、官僚を「国民全体の奉仕者」と位置づけているが、一見正論のように響くこの規定が、政治の選択とは別に「国民全体の利益」というものが存在し、それを官僚が代表しているといった間違った観念を生んでいるのである。
■ ポスト細川政権の政治は、端的に言うと「公明党・創価学会を自民党と小沢のどちらが手に入れるか」の争いだったと言える。創価学会は、選挙の時にはマシンとして無私無償で奉仕してくれるが、自民党は学会に頼るあまりに自らの後援会組織を空洞化させ、いつのまにか公明党・創価学会の術中にはめられているのである。
■ 民主党は統一補選の結果を悲観すべきではない。あの低投票率で、学会の支持を得て、なおあの票差まで迫られているというのは、如何に自民党の伝統的選挙基盤が弱体化しているかの証左である。
(了・文責 11期 大西健介)



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