一新塾ニュース  第39号
「米国のテロ報復戦争の愚」

青山 貞一
環境総合研究所所長
 一新塾アドバイザリーボードメンバー

★はじめに

 私がWTC事件を知ったのは、韓国の慶州で国際学会に9月9日から参加している最中だった。コンコルドホテルの自室でたまたまNHK-BS2による全米ネットワークABCを見ていたら、NYCのWTCビルからもくもくと煙がでていた。その直後第二の航空機がもうひとつのビルに突入し炎上した。

 国際学会が開かれたのは現代ホテル(ヒュンダイ)だが、そこには米国環境保護庁(EPA)の幹部職員はじめ欧米の著名なダイオキシン研究者が集まっていた。会議場の入り口に掲揚されていた国旗はいずれも半旗となった。また友人のカナダから来ていた研究者を含め学会が14日に終了した後も、北米への帰国が足止めとなった。

 11日以降,韓国で見たの米英系テレビ、すなわちABC,CNN,BBCそれにNHK-BS2は一日中、WTC事件一色となった。画面にはWTCビルの炎上、崩壊が何10回、いやおそらく何100と映し出され、ブッシュ大統領が報復戦争について言明し出していた。

 わたくしは妻の親類が貧しい東北の地から大正後期にカリフォルニアに渡りその後米国のシカゴ、カリフォルニアなど西海岸各地、ハワイのホノルルなどに散在して居住している。また米軍にもNYCにもDCにも多数の友人がいる。その意味でけっして他人事ではない。にもかかわらず、これから起ころうとしているブッシュ政権を軸とした報復戦争は「21世紀の新たな戦争」とか、「正義の闘い」と言った、いわばテロ報復戦争を正当化する口実とは別に、きわめて危険な重要な他の側面もあることを、見過ごしてはならないと思う。

★米国のアフガン報復戦争の行方

 米国のブッシュ政権は、WTCやワシントンDCのペンタゴンに航空機を突っ込ませ炎上、崩壊させた自爆テロにいち早く、これは「戦争である」と言明した。さらに「報復戦争」を宣言した。これをきっかけとして、今後ブッシュ政権は自爆テロの背後にいると見なされるビンランディンをかくまうアフガン地域全体の制圧に乗り出す可能性が高い。この場合、どう見てもブッシュ政権が「ビンラディン」の首をとるだけで、米国が引き下がる可能性は低い。ブッシュ大統領自身が言明しているように、今回の報復戦争は長期戦となるだろう。

 アフガンへのテロ報復戦争では、米国は当初戦闘機や巡航ミサイル(トマホーク)を使った空爆からはじまる可能性もある。しかしブッシュ政権の報復戦争の戦術につき,グル元パキスタン軍情報機関の長官は,9月24日の毎日新聞朝刊で次のように言明している。これは毎日新聞記者のインタビューに直接応えたものである。

 「アフガンには壊すべき道路も橋も軍事施設もない。身を潜めた兵士に最新鋭のステルス爆撃機も通用しない。逆に米軍は(アフガン戦争で米国が供与した)対空ミサイルで撃墜され,市民を闇雲に殺傷するだけの結果になる」(「米はソ連の二の舞になる」毎日新聞2001.9.24朝刊)
 
 ではブッシュ政権が地上軍をアフガンに投入した場合どうなるのか。これに対しグル氏は

 「米国が地上軍を投入すれば、タリバンはすぐに駆逐され、アフガニスタンのカブールに米国の傀儡政権が樹立されるだろう。しかし、本当の戦争はそれからだ。タリバンはゲリラ戦で通信、軍事施設を破壊し、新政権の統治は点だけで面にはならず、内戦状態が終息することはない」

と断言している。さらにグル氏は、

 「その後、戦争が泥沼化し市民の犠牲者が増えれば、国際社会で反米感情が一層高まり、新たな対米テロも誘発することになる」

と警告している。百戦錬磨のグル氏の推察は欧米の机上の軍事評論家とは明らかに違うと思えた。

★ブッシュ政権のもうひとつのアフガン戦略(石油権益) 

 米国の中東戦略の「目玉」はいつの時代も石油利権にあると言われている。
 過去の中東戦争、とくに湾岸戦争はその重大例だ。湾岸戦争はあたかも米国のブッシュ政権(現大統領の父親)を軸とした多国籍軍によるクウェートに武力侵攻した「無法者」で「ならず者」国家イラクへの報復戦争,正義の闘いとされていた。だが、この「正義の闘い」も間違いなく米国系メジャー(石油資本)の権益確保にあることも推察できる。

 1991年の湾岸戦争は言うまでもなく,現ブッシュ大統領の父親が米国大統領だったときに起こした戦争である。ブッシュ親子がテキサス出身であり米国系石油資本との関係があることは世界的によく知られている。現ブッシュ大統領がCOP6の地球温暖化政策で,非常に後ろ向きな対応しか示さないのも石油資本との関連があるからだ,という認識が米国だけでなく欧州、日本のNGOにもある。

 ところでビンラディンが米国を敵視する最大の理由は何か。
 サウジの大富豪の二男として生まれたビンラディンが反米色を濃くしたのは、祖国サウディアラビアに湾岸戦争(1991年)終結後も米軍基地を残したこ とにあると言われている。米軍のサウジ残留は,おそらくイラク軍監視を名目としているが、今後中東で紛争が起こったときに湾岸諸国、湾岸地域の欧米の石油権益保護の軍事的拠点を用意することを眼目としていることは間違いがないところだろう。

 タリバンなどアフガン情勢に詳しい静岡県立大学の宮田助教授がNHKの生番組ではからずも次のことを話されていた。宮田教授の話しを総合すると次のようになる。

 長年にわたるソ連とアフガン戦争の終結後、米国は旧ソ連を構成するアフガン北部の地域で採掘される大規模油田からの原油をアフガン北部そしてパキスタンを経由しインド洋の港湾に輸送する一大プロジェクトを進めてきた。冷戦時,反ソでアフガン側に大規模武器を援助したのは米国だ。

 しかしアフガンが旧ソ連に勝利した後,米国は過激イスラム原理主義者のあつまりであるタリバンがアフガン国土の90%を支配するとは思っていなかった。そのタリバンは反米色を強くもち、米国によるサウジ駐留以降、残留に反発するサウジ最大のゼネコン会社社長の息子ビンラディンとの連携を深めていった。この経緯のなかで米国の旧ソ連地域からインド洋への原油輸送プロジェクトが思うように行かなくなってきた。今後ともアフガン、パキスタンなどがタリバンとビンラディンの影響力下にあるとすると  インド洋側への米国系メジャーの原油搬出が永遠に困難となる。

 クウェートへのイラク軍侵攻のときもそうだったが、米国,とくに父親のブッシュ政権が当該地域への軍事侵攻にこだわる理由のひとつは、報復的軍事侵攻以外に,アフガン北部地域にある旧ソ連の.....タンと名がつくイスラム系CIS共和国が高品質の油井をたくさんもっていることあると考えられる。実際、世界の資源エネルギー地図を見れば分かるが,旧ソ連関連共和国では、バクーなどカスピ海沿岸地域の油田が有名だが、サマルカンド、タシケントの近くにも多数の井マーク、つまり油井のマークがある。サマルカンドの南部はアフガンに接している。

 アフガン問題と石油問題については、23日夜,日本のテレビで松波衆議院議員(保守党)も言及していた。彼は数少ないアフガニスタンに詳しい日本人である。

 ブッシュ政権がしつようにアフガン侵攻にこだわる理由は,もちろんWTCテロ襲撃事件などテロへの報復にあることは言をまたないが,この機に乗じ石油利権を確保する、それも先に書いたカブールに米国傀儡政権を樹立しつつその権益を確保する可能性もけっして否定できないと思える。

★石油会社社長ブッシュ大統領の家とオサマ家は因縁があった?

 9月25日の朝日新聞夕刊に、わたくしが「米国のテロ報復戦争の愚(2)」に書いた論考を裏付ける興味深い記事がでた。世界が喪に服しているさ中信じられない内容の記事である。

 「ビンラディン家・ブッシュ家に因縁」と言うタイトルです。両家はもともと石油ビジネスでつながっていたというのですからこれはもう驚きというかブラックジョーク以外のなにものでもない。内容の詳細は新聞記事を読んでいただくとして、現在のブッシュ大統領が設立した石油会社(アルブスト・エネルギー社)にビンラディンのオサマ家の長兄が出資していたというのだ(当初、米英紙が報道)。

 こうなるとますます今回のアフガンへのブッシュ政権のテロ報復戦争は、アフガン背後地域にある油田,石油の権益保護、利権獲得と無縁ではなさそうだ。

 もしアフガンのカブールにブッシュ政権の傀儡政権ができ,旧ソ連の...タンとつくイスラム共和国からアフガン北部同盟を経由しパキスタンの原油輸送ルートができれば、石油会社社長、ブッシュ大統領は、一挙両得となるだろう。
WTC事件は間違いなく痛ましい事件であり,亡くなられた方々にはご冥福をお祈りする。しかし、このような「事実」に接するに及んで、それでも世界市民がテロ報復戦争を支持などできるものだろうか? 大いに疑問を感ぜざるをえない。

 一方、旧ソ連、現CISのプーチン大統領は、アフガン戦争以降ずっと手を焼いてきたチェチェン共和国のゲリラに対し、欧米諸国の援助のもとで、堂々と彼らをイスラム過激派、そしてテロ呼ばわりし、今後やはり報復戦争をしかけようとし欧米諸国に根回しをはじめた。もしそうなればチェチェンはひとたまりもなく駆逐されるだろう。

 こうみてくると、米、旧ソ連超大国の真の戦略が見えてくる。
 イスラム過激派そして大規模テロ根絶の名のもとに、自分たちの権益や立場を強固にし、経済的にも利権を分配すると言う、おぞましい過去の帝国主義の歴史を21世紀に繰り返すことになりかねないからだ。ブッシュや軍事評論家は、21世紀の新たな戦争などと言っている。だが、現実は相も変わらず米国やCISの両超大国の軍事政治的さらに経済的な世界支配が展開されていると我々は認識すべきかも知れない。

■編集室より

青山貞一氏には、一新塾アドバイザリーボードメンバーとして、コミットしていただいております。氏の率いる環境総合研究所は日本で唯一の「闘うシンクタンク」です。地球物理学者から経済学者まで専門スタッフを持ち、川崎市環境基本条例や環境基本計画など先駈けとなる立案を行っています。NGOとして、湾岸戦争とナホトカ号重油流出の環境予測や30件余の住民支援を行い、住民団体の依頼によるアセスで計画変更を勝ち取りました。1999年7月成立のダイオキシン対策法では、主宰するNGO「環境行政改革フォーラム」が国会議員と協力してたたき台を作り上げました。
(森嶋)

 

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