
一新塾卒塾生の体験談とメッセージ

白井 宏忠 氏
ひめじクリスマスマーケット実行委員会 代表
一新塾52・54期卒塾
◎入塾前は会社員(東京)
→会社員+地元姫路で市民活動
→姫路にUターン「農業+市民活動」
「『世界に誇る姫路』を、未来へつなぐ」
東京で会社員として働きながら、故郷・姫路で市民活動を立ち上げた。始まりは、失われかけた祭りの鼓動に、もう一度心を揺さぶられたことだった。
【姫路を離れて見えた、故郷の価値】
私は姫路で生まれ、高校卒業までこの街で育った。けれど当時は、社会人になれば東京や海外で活躍するのが当然だと思っていた。姫路を離れ、東京で働き、結婚し、二人の子どもにも恵まれた。それでも、盆と正月、そして毎年10月の秋祭りには必ず帰省した。私にとって秋祭りは、単なる年中行事ではない。子どもの頃から屋台の太鼓の鼓動を体で感じ、「よ~いやさ~」の掛け声に胸を熱くし、いつか自分も屋台を担ぐ格好いい大人になりたいと憧れた、故郷そのものだった。
大学時代にはアメリカに1年間、その後ドイツに3か月留学した。そこで目にしたのは、地方都市ごとに息づく濃い文化と個性だった。街の成り立ちには歴史があり、その歴史から文化や産業が育ち、人が集まり、今を生きる人々が受け継ぎながら発展させている。その姿に触れ、「姫路も、こうあってほしい」と強く思った。
ただ、その頃の私は、自分が先頭に立って街を変えるとは考えていなかった。姫路への願いはあっても、行動に移す理由と勇気が、まだ見つかっていなかったのである。
【太鼓の鼓動が呼び戻した原点】
転機はコロナ禍だった。秋祭りは3年間中止となり、実家に帰る機会も減った。「祭りがないことが日常になってしまうかもしれない」。そう考えると、言いようのない寂しさと虚しさが込み上げた。そして4年目、ついに祭りが再開した。久しぶりに屋台の太鼓を聞いた瞬間、鼓動が心臓へ直接訴えかけてくるようで、全身が武者震いした。「やはり、自分が帰るべき場所はここだ」。その確信と同時に、高齢化によって祭りの文化が少しずつ衰えている現実にも気づいた。
【東京にいながら始めた、小さな挑戦】
2023年、Webサイトで一新塾を知り、入塾した。大前研一さんの社会起業家精神に関心があり、政治、NPO、社会起業という多様なアプローチを学びながら、姫路の活性化に向けた道を探したかったからだ。仕事は忙しかったが、仲間を集めてチームを立ち上げ、「東京にいながらでも、姫路に貢献できることはある」と一歩を踏み出した。
一新塾で先輩たちの活動事例に触れ、とりわけ東京にいながら地元で活動を始めた事例に背中を押された。「今は東京にいる。だからこそ、小さく始めよう。まずは自分の出身の村から変化を起こそう」。そう考え、年間で最も人が集まる秋祭りに、村の歴史上初めてキッチンカーを呼ぶ計画を立てた。
地元にいる両親と妹に協力を頼み、クレープのキッチンカーを手配し、出店場所を確保した。父は自治会や屋台保存会との調整に奔走してくれた。祭り当日、キッチンカーは1時間で80枚のクレープを焼くという店の新記録をつくるほどの大盛況となった。小さなアイデアが、家族と地域を巻き込み、目に見える変化になった瞬間だった。
東京のチームメンバーであるTさんは、わざわざ姫路に3日間滞在し、私の実家で両親や親戚とすき焼きを囲みながら、姫路の可能性を語り合ってくれた。この時間は、私にとってもチームにとっても大きな一歩だった。翌2024年にはキッチンカーを2店舗に増やし、村の人々からさらに大きな反響を得た。
【村の一歩から、姫路の新しい風へ】
次に目指したのは、活動の輪を姫路市全体へ広げることだった。2024年12月、「クリスマスマーケット」を開催した。姫路城はドイツのノイシュバンシュタイン城と姉妹城観光都市契約を結んでおり、姫路とドイツには確かなつながりがある。その歴史を、現代の新しい文化へ育てたいと考えたのである。
当初は資金もネットワークもなかった。しかし、目指す姿を語り続けるうちに仲間が増え、7店舗が集まり、開催へこぎつけた。さらに、巨大なクリスマスツリーを協賛してくださる企業まで現れた。まるで神風が吹いたように感じたが、その風を呼び込んだのは、最初の一歩と、想いを言葉にして伝え続けたことだった。
2年目は、「ひめじクリスマスマーケット実行委員会」という市民団体を立ち上げ、単発のイベントではなく、姫路を代表する冬の風物詩へ育てることを目標に掲げた上で、姫路市の後援も獲得し、クリスマスマーケットと併せて、サンタパレードというサンタの衣装を着て約70人で姫路の大手前通りを彩った。
【若者が帰りたくなる姫路へ】
2026年、私は姫路へUターンする。実家の農業に携わりながら、目指すのは「若者が帰りたくなる新たな姫路」だ。受け継がれてきた祭りや歴史を守るだけではなく、そこへ新しい文化、仕事、人のつながりを重ね、姫路で挑戦することに希望を持てる街をつくっていきたい。
遠くにいても、資金や人脈がなくても、変化は始められる。大切なのは、完璧な計画を待つことではなく、自分が心から大切にしたいものを見つけ、できる場所から小さく動くことだ。その一歩が誰かの共感を呼び、仲間をつなぎ、やがて地域の新しい景色をつくる。私の挑戦が、一人ひとりにとって「自分なら何を未来へつなぎたいか」を考え、最初の一歩を踏み出すきっかけになればうれしい。
白井宏忠(ひめじクリスマスマーケット実行委員会 代表)
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