一新塾卒塾生からのメッセージ
田中記代美 氏
ママのホップ・ステップ・ジャンププロジェクト代表
ファミリー法律事務所 代表(弁護士)
一新塾52期・54期卒塾
◎入塾前は弁護士
→弁護士 + 市民プロジェクト
「ママホップで社会を変える
~シングルマザー支援」
私は結婚して子供が生まれ2歳になる前に夫と別居せざるをえなくなりました。当時は実家に身を寄せ離婚成立まで3つのパートを掛け持ちして生活費を稼いでいました。別居から離婚調停を経て離婚裁判の和解まで3年もかかり,なかなか進まない手続きに大きな不安を感じていました。離婚が成立してからもひとりで育児などの問題を抱え込むことが多く大変でした。
この当事者としての経験を活かせないかと,離婚が成立した40歳の時に一念発起してできたばかりの法科大学院に入学して勉強し,弁護士になりました。 これまで弁護士として家事事件を中心に活動をしてきましたが、かつての私のように、不安を抱えて辛い思いをしながら困窮の中で頑張って子育てして働いているシングルマザーの方がたくさんいます。仕事をしながら「個別の事例をいくらこなしても世の中は変わらないのではないか。根本原因から救済する具体的な仕組みがあればいいのに。」との思いを募らせてきました。
ひとり親家庭の中でも、母子家庭の貧困率は高く、婚姻時に扶養の範囲で働いていることが離婚後も尾を引いています。母子家庭の収入を上げていくことが必要です。さらに養育費を受け取れるような支援も必要です。 それに加えて公的な支援制度が確実に利用できているか、しっかり確認することも重要だと考えています。
たまたま、社会人大学院で「社会起業家」について学んだことをきっかけに、自分にもこのことを解決するビジネスモデルが作れるのではと考え、一新塾に入塾しました。大学院で書いたレポート上での考えを、具体的な解決策に発展させ実践するには更なる学びと仲間,そしてこれから沢山出て来るであろう悩みを相談できる信頼できる人が必要だと考えたからです。インターネットで探したところ,他にもいくつか社会起業について学ぶ私塾がありましたが、一新塾が一番実直で社会課題を正面から捉えて地道に活動する姿勢がうかがわれたので信頼できると考えました。
一新塾では「社会課題」に対して、自分なりの「理想の社会ビジョン」を描いてプレゼンし、仲間を募り社会実験をするプログラムがありました。私は仲間が集まってくれるのか不安ではありましたが、とにかく手を上げなくては始まらないと思い、せっかく入塾したのだからとリーダーにエントリーしました。プロジェクトは「ママのホップ・ステップ・ジャンプ」。すると、二人の男性の方が仲間になってくださり、2023年8月に活動を立ち上げることができました。お二人はサラリーマンで仕事も忙しい中、プロジェクトの方向性や具体性へのブラッシュアップに協力してくださいました。
しかし,プロジェクトを立ち上げてはみたものの,最初の一歩をどう踏み出すのかについては,なかなか考えがまとまらず大変苦労しました。産みの苦しみとはこのことだと思います。早く最初のミニイベントを何かやらなくてはと焦っている時に受けた,一新塾の定期個人面談で話しているまさにその最中に「相談をみんなで受ける」というフレーズが頭に浮かびました。「そうだ,いろんな資格の友達を呼んでシンママの相談を受けよう。みんな,相談を受ける仕事じゃないか。」と,思いついた瞬間の高揚感はその後の私の原動力になりました。自分の中で思いつきそうで思いつかなかったことが,一新塾の面談でああでもないこうでもないとお話ししている間に自分の中でまとまって具体的に浮かんだのだと思います。
そこで,いろいろな資格や特技を持ち,気持ちの優しい友人たちに声をかけて,12名の女性メンバーにプロジェクトに加わってもらいました。そして,フードパントリー付きの相談会にして,相談へのハードルをできるだけ低くしました。それでも最初の相談会は6件しか相談がありませんでした。「相談するのが苦手」「何から相談していいかわからない」という人が多く、相談してもらうためには信頼関係がとても大切だということがわかりました。今では多い時で18件,だいたい14件から16件の相談が入るようになっています。
シンママと一緒に来た子どもたちにも楽しんでもらえるように子供向けのワークショップ企画も取り入れました。現在は年3回、夏休み、春休み、冬休みの前にイベントを開催しています。回を追うごとに、土浦市社会福祉協議会に共催していただけるようになり,フードバンクや地域の様々な団体ともつながり、信頼できる情報もたくさん得られるようになりました。このイベント開催を足掛かりに、基礎固めをして、シングルマザーの方の就業支援をしっかり行えるビジネスモデルへの道を模索中です。
子どもが独り立ちできるようになるまでの長い期間の中で,シングルマザーは目の前の生活に精一杯になりすぎて悪循環にはまってしまったり,誰かに相談する気持ちの余裕すらなくなってしまうこともあります。そんな彼女らが、丁寧に話を聞いてもらえる、解決の糸口を探す手伝いをしてくれる存在を社会の仕組みとしてつくりたいと思っています。
田中記代美(ママのホップ・ステップ・ジャンププロジェクト代表)
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